大井さんについてはここで改めて紹介するまでもないであろう。俳壇で論・作ともに旺盛な発信活動を行っている方である。その第四句集に当るらしい。ふらんす堂、2024年4月23日発行。
自選句の提示がないので、小生の感銘句を掲げる。
009 死というは皆仰向けに夏の兵
014 〈近い(スコーラ)帰国(ダモイ)〉いくたびも聞き日本海
025 多喜二はピエタ神も仏もなきと母(セキ)
044 戦争に注意 白線の内側へ
ここまでが第Ⅰ部。おおまかな言い方をすれば、「ネオ社会性俳句集」のようである。昭和以降、現在までの、国際面を含む社会における理不尽な事象を嘆いている。当然、無季俳句がその存在を主張している。
063 ミカドアゲハよ望の夜を翔ばんかに
070 白秋の鳥いる朝のひかりかな
第Ⅱ部から選んだ。ここでも無季が多いが、モチーフ的には自然を大切に詠っているような感じである。俳句性を大切に、雪月花を大切にしている。俳句へのノスタルジーを感じさせる。
078 悼 長岡裕一郎
裕一郎驟雨に似たる花吹雪
079 悼 糸大八
「花の悲歌」芥子の花にぞとこしなえ
082 悼 磯貝碧蹄館
握手して獅子たる見得や春の天
082 悼 和田悟朗
水中の水はレモンの水ならん
084 悼 金子兜太
他界の春を与太な兜太よ九八
087 悼 髙橋 龍
龍天に青枯れの葉を玩味するか
089 悼 清水哲男
されど雨「天と破調」という遺髪
091 悼 黒田杏子
木の椅子にかけず逝かれし杏の子
091 悼 齋藤愼爾
愼爾深夜の夏の扉を開けましたか
092 悼 澤好摩
極彩のみちのくあれば幸せしあわせ
092 悼 岸本マチ子
うりずんや恍惚を生くたてがみの
第Ⅲ部は明快な意図があって編まれた。大井さんが親しくされておられた俳人を悼む句がずらりと並んでいる。中から、小生も一緒に句会を楽しんだり、取材させて戴いた方々を思いだしながら、選ばせて戴いた。万感の思いである。
ただし、次の一句を追記したい。
090 悼 救仁郷由美子
汝と我不在の秋の陽がのぼる
この句集にコロナの句が見られた。大井さんご自身も罹患され入院されておられた。その間に、奥様の救仁郷さんが亡くなられた。お別れはスマホの画面越しであったと知った。切ない。
097 行方わからぬ光放てり手の林檎
116 人にのみ祈る力よ 日よ 月よ
117 歳旦の箸置きいくつ窓秋忌
121 つぐなえる死などはなくて母の秋
第Ⅳ部はいろいろなモチーフが混在している。第Ⅰ部から第Ⅲ部までの輪唱のようである。
この句集を読ませて戴いて、刺激を受けた。その刺激は、小生が日頃楽しんでいる句会でお目にかかる句とは違った作品に出会って得られる刺激であった。つくづく、今の私の俳句でいいのであろうかと思わされた。
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