大輪靖宏さんが米寿を迎えられた。お祝いの会の写真を添えられた楉(すはえ)句会(前身は「上智句会」)の二十五周年記念句集を戴いた。根来久美子さんのあとがきが良い。良き師の元に良き門下生が集まっている。
句集を開いて一読した。こころ優しい句が並んでいる。まさにこの師のもとにこの弟子たちが集まった、との感を深めた。一人一句に絞って、こころ惹かれた句を挙げ、お礼に替えよう。
湯に浸る手足に今日の花疲れ 大輪靖宏
少年の口紅著し初電車 根来久美子
来とるばい土手に菜の花忘れずに 川南 隆
ぬんめりと鯉の裸身や冬隣 歌代美遥
山の家の洗はれてゆく驟雨かな 藤井綏子
冬めくや湯守揉み込む木の香り 吉迫まありい
京に来て鱧は嫌ひと言ふ男 柳堀悦子
のどけしや向ひ合せに花御膳 伊藤 眠
去来忌やここにも一人翁の客 染谷獄雨
パナマ帽粋に脱ぎ持つ老紳士 平澤東山
夏の月少女は鯨と旅に出る 蠟山葉流美
いにしへのことばのやうに鹿の声 仲 栄司
枕辺にもう立たぬ父彼岸花 向瀬美音
秋の薔薇ミドルネームを持つ従妹 山本ふぢな
再会の日傘うなづくいくたびも 井上泰至
天高し舟にて潜る大鳥居 喜多真王
乾鮭の眼の何も見てをらず 長谷川槙子
鈴蘭や明日は明るき日とならむ 八嶋郷子
水仙の事故物件に咲き残る 峯尾文世
セーターが祈る姿にたたまれて 栗原和子
生涯の友に出会ふ日入学式 高原沙織
朝寒やほどよき湯気の茶を供ふ 岸本こずえ
男親にあや取りの糸短くて 成瀬靖子
花吹雪ただそこにゐる不確かさ 藻井友紀子
父の日の父ら用事のあるごとく 松尾 哲
白梅散る下おきな在りおうな在り 西苑実生
はじまりはいつも小さき登山口 今尾江美子
葡萄食い葡萄のかたちを変えてゆく 諸星千綾
有難う御座いました。大輪先生はじめ皆様のご健吟を願っております。
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