長井 寛句集『十七会(となかい)』
- ht-kurib
- 3月19日
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長井さんは、「遊牧」(清水怜代表・塩野谷仁名誉代表)の重鎮で、現代俳句協会年度賞(第17回、2016年)受賞者。長らく「現代俳句」の編集長であられた。その第二句集で、2025年2月4日、現代俳句協会発行。一頁に3句収容、239頁、600句の渾身の句集である。
自選句は次の10句。
水温みパンとことばと暮らす日々
デジャビューの母の胎内春の泥
平凡に勝るものなし桃の花
電子という激流前に春惜しむ
水馬円周率を抜け出せず
夜もすがら夏蚕しぐれを聞く故山
夕焼けに合掌小焼けに感謝
生身魂袖触る澁谷交差点
太古より白鳥の領(し)る地動説
歳時記の一茶と遊ぶ初句会
小生の好んだ句は次の通り。
011 千本の鳥居を染める春の雪
035 髪伸びるはやさに月の満ちており
057 散りてなおさくらばな咲く義士の墓
061 八十年戦なき世や小鳥来る
068 噴水の天辺釈迦の入滅す
070 目の合いし水槽の烏賊後退る
079 未踏なる雪に鴉の足の跡
093 右の手に左手重ねている早春
114 後戻りせぬ蘭鋳の心意気
116 自由とは空を飛ぶこと赤とんぼ
127 茶筅より迸(とばし)る調べ初御空
130 笹鳴きを聞くとはなしの武者隠し
132 ごうごうと音立てて咲く桜花
136 後朝の仄かな灯り不如帰
139 色鳥来東海林太郎の丸めがね
144 踊りの輪かげなきひとのかげをふむ
157 外套に己がこころを置き忘る
168 春田打つ寸馬豆人弥彦山
169 陰謀をめぐらす真夜の享保雛
183 とかとんとん口より釘を生む新涼
186 古井戸の弓張月を待つ蛙
190 狐の剃刀糺の森の天気雨
230 杼(ひ)の調べ夢寐(むび)に忘ぜずちちろ虫
小生のイチオシの句は次の一句。
144 踊りの輪かげなきひとのかげをふむ
『遊牧』のどこかの句会で出会ったような気がする。盆踊りは故人を偲びながら踊るものなのでしょう。盆踊りの句は沢山あるが、高野素十の〈づかづかと来て踊子にささやける〉が有名でしょう。いかにも瞬間を切り取った軽い名句です。それと比較して、長井句は、盆踊りの本質から逃げないで、父祖や故人を思いながら、真摯に詠っている。子どものころ遊んだ「影踏み遊び」をも思い出す。意中の子の影を急いで踏む、なんて……。長井さんも、亡くなった意中の人を思いながら踊っている、と考えるのは深読みに過ぎますかね。
渾身の第二句集、有難う御座いました。
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